フリーランスとして生きる中で、もっとも悩ましいのが「報酬の交渉」の瞬間だ。
特に、普段は「短時間の仕事を高い単価でこなしている自負」がある場合、その自尊心と価値観は強固だろう。
でも突然、「週15時間の作業を毎週保証するよ」という提案が舞い込み、「なら少しぐらい値下げした方が得なのか?」とグラついてしまう。
こうした揺れ動く感情は、まるで安定という名の果実を目の前にぶら下げられ、手を伸ばそうとするたびに「それ、本当に甘い果実かな?」と疑念が走るようなものだ。
このトピ主も、そんな葛藤に飲み込まれていた。
今回取り上げるのは、海外のフリーランスコミュニティで交わされた生の議論だ。
週あたりの作業時間が増える案件で、時給を下げるべきだろうか?
ちょっと聞いてほしい。私は数年フリーランスのライターをやってきた。
ほとんどはプロジェクト単位での支払いだけど、何社かは時給で、だいたい70〜100ドルくらいだ。
今、新しい潜在的クライアントと話していて、週15時間の仕事を安定的に出せるって言うんだ。
それに対して、これまでは1カ月でせいぜい6時間程度の時給案件だったから、『こんなに長く継続する場合、普通は値段を変えるものなの?』と戸惑ってる。
バカな疑問かもしれないけど、これは常時あるパートタイムジョブみたいな感覚で、いつものフリーランス的な短期高単価とは違う気がしてる。
いつものレートを維持すべきか、それともやっぱり少し下げる方がいいのかな?
【編集追記】
みんな、レスありがとう!全部読んだよ、すごく参考になった。
結局、私はいつものレートで行くことにする。
それで、もしリテイナー契約を結ぶなら15%の割引を提供するオプションも提示することにしたよ。
時給70〜100ドルという高めのレートで、高品質なアウトプットを提供してきた実績と誇りがある。
いつもは1カ月に数時間の案件でサッと稼ぎ、残りの時間は別のプロジェクトや新規開拓に回す。そうやって流動的で、だが高価値な「職人」的生き方を続けていた。
しかし、今回のクライアント候補は「もっとずっと、継続的に仕事を出せる」と言う。
週15時間は、フリーランスの生産性から見れば「そこそこ大きな塊」だ。安定は魅力的だ。
その安心感と引き換えに、ちょっと時給を下げてもいいんじゃないか?──そんな誘惑が脳裏をよぎる。
もちろん、スレッドには様々な声が集まった。
そこには人生経験豊富なフリーランサーたちの生きた知恵が詰まっている。
「自分の価値」と「安定」
「安定した発注量=割引」という方程式は、実はそれほど単純ではない。トピ主は、自分のスキルと時間が高い価値を持つと認識していたからこそ、時給70〜100ドルで短時間案件を請け負っていた。ところが「週15時間」というまとまったボリュームを提示されたことで、これまでのやり方を変えるべきか揺らぎ始めたのだ。
「もしかすると相手は、安定供給をエサにこちらのレートを下げさせたいだけかもしれない」
「一方で、15時間毎週埋まるなら探す手間や営業コストが減るし、少し値下げしてもトータルでプラスかもしれない」
そんな思考が堂々巡りする。フリーランスにとって、単価は単なる収入源ではなく、自分自身への報酬評価そのものに直結する。少し値下げすることで「自分は安く買い叩かれているのでは?」という疑念がわき起こることもある。
スレッド上の意見
この問いに対して、多くのコメントが寄せられた。その中には、いくつかのパターンが見受けられる。
「時給は時給であるべき」派
ある声は
「契約書で時間と金額を保証されていない限り、クライアントが『週15時間』と言ってもそれはただの甘い話かもしれない。『大量発注だから割り引け』という戦略は、じつは確かな保証がない『ニンジン』をちらつかせているだけの場合がある」
と主張していた。
彼らは「フリーランスは自分の価値を下げる必要はない」と考え、むしろ「時給は自分が払ってほしい額から動かすべきでない」と強く述べる。
結局、割引による長期契約はリスクもあり、相手が約束を反故にすれば自分は割り引いた分だけ損をすることになる。
「安定した仕事には多少の割引もあり」派
別の人は
安定供給には確かに価値がある。少しレートを下げても、毎週15時間分が埋まることで余計な営業やマーケティング、クライアント開拓に使う時間・コストを減らせるなら、結果的にはあなたのトータル収益や心理的安定は上がるかもしれない
という意見を示していた。
この立場の人々は、一種の「まとめ買い割引」概念を持ち出す。スーパーで大量買いすれば割引があるように、クライアント側から見れば長期かつまとまったボリュームの依頼にはコスト削減要求が生まれて当然と考える。
ただし注意点は、「本当にその時間が保証されているのか」「リテイナー契約などで先払いしてもらえるか」などの条件だ。そうでなければ、ただの「値下げ交渉」に負ける形になる。
「リテイナー契約」や「事前支払い」という選択肢
またある声は
もし割引するなら「リテイナー契約(一定額を先払いしてもらい、その時間は自分を『確保』する契約)」や「一定期間の確約」を条件にすべき
と指摘した。これにより、単なる値下げにはとどまらず「安定」と「前払いによるリスク軽減」という対価を得ることができる。
「あるコメント」はこんな指摘をしている。
クライアントが週15時間を確約し、前払いするなら15%程度の割引は妥当かもしれない
これにより、フリーランサーは空き時間リスクを負わず、クライアントはコストダウンというメリットを受け取る。両者が対等な条件で交渉することで、安定を割引の正当な理由にできる。
「過去の痛い経験」から学ぶ警告
別のコメントでは
一度低いレートを受けたら、そこから先、仕事の範囲が増えたり、相手が甘えてきて実質的な時給がさらに下がることもある
という警告が示されていた。過去にクライアントの期待を鵜呑みにして、実質12ドル/時まで下げさせられ、膨大な価値を提供したにもかかわらず、全く報われなかった体験談が挙がった。
こうしたトラウマ的な経験談は、フリーランスにとって強い警鐘となる。
「安定した発注量」がいつの間にか「むしられる労働」に変わるリスクを指摘しているのだ。
心の内側で渦巻く葛藤
こうした議論の背景には、フリーランスとしての「自分の価値」に対する繊細な思いがある。
- 「時給を下げるって、結局自分を安売りしている気がする…」
- 「でも安定した毎週15時間があれば、精神的な余裕が生まれるし、他の案件を探す苦労も減る」
- 「過去に騙されたことはないけれど、もし今回、その甘い話が空振りだったら?」
- 「いや、もし本当に上手くいくならば、割引してでもゲットする価値があるのでは?」
これらは、フリーランスとして独立した存在が常に抱えるジレンマだ。
市場での自分の価格は自分で決めるしかないし、その結果に責任を負うのも自分だけ。
だからこそ、こうした「他の経験者からのアドバイス」は精神的な支えになる。
トピ主が「皆の意見を読んで決心がついた」と言ったように、一人で抱えるのが辛い不安や疑問は、仲間の声で和らぐこともある。
「価値を守る」から「条件で譲歩」へ
最終的にトピ主は、通常のレート維持を決めた上で、もしリテイナー契約を結ぶなら15%の割引を提供するという条件を提示した。この一手は、まさに折衷案だ。
「自分のレートはそう簡単に下げない。でも、もし安定と前払いがあるなら、その見返りとして割引してもいい。」
トピ主はこうすることで、「ただの値引き交渉」から「正当な条件付き値下げ」へと交渉を変えた。
安定をくれるなら、こっちも譲歩するよ、という姿勢だ。
ここで重要なのは、トピ主が「一度下げたら戻せない」という不安な状態から、「条件次第でレートを動かせる、主体的な交渉者」へと意識をシフトしたことだ。
これこそ、フリーランスが自分の業務をコントロールし、市場価値を適正に扱うための大切なマインドセットと言える。
あなたなら、どう舵を切る?
この話は、あなたがもし同じような状況に直面したとき、何を基準に判断すべきかのヒントをくれる。
- クライアントは本当に約束を守るのか?
- リテイナー契約や前払いなど、安定を証明する手段を提示できるか?
- 値下げによって得られるメリット(安心感、営業コスト削減、時間の有効活用)は、失うもの(自分のプライド、将来の金額アップの難しさ)を上回るか?
- 今後の市場相場や他のクライアントへの影響はどうか?
これらを冷静に考えた上で、自分なりの「納得いく」落としどころを見つけるのが、フリーランスとしての成熟だ。
人によっては「そんなの割引する必要ない」と断言するだろうし、別の人は「ちょっと譲歩してでも、安定を買った方が得策だ」と考えるかもしれない。
正解は一つではない。ただ、騙されず、後悔しないためには、「条件」を明確にしてリスクを最小化することが大事だ。
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